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第十七回(平成10年8月20日、11時半・16時半開演)

プログラム表紙

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「美少年於夏聞書」


「美少年於夏聞書」


「花競葉月舟」

 

第十七回記念上演
「美少年於夏聞書」
(びしょうねんおなつのききがき)

葉月会研究会議=企画構成
滝澤馬琴読本「近世説美少年録」より
持田諒=脚本

笹屋お夏・末珠之介=中村歌江、とどき夜行太=中村駒助、辛踏四郎・薬士吾足斉延明=吉次改め中村吉五郎、池澄屋鮒九郎・女すりおとり=中村紫若、吾足斉娘晩稲=尾上梅之丞(大谷ちぐさ)、女中およし=中村時蝶、乳母お梅=市川左升、陶瀬十郎=澤村紀義、末松屋木偶介=松本錦一、御影右京=中村信之、植木屋植久・ぬばたまの黒三=澤村光紀、若先生晋三=中村又一、末松屋女房おさき=中村蝶次郎、植久娘お里・参詣の人・薬屋の客=佐藤雅志(市川喜久於)、ならず者猪弥三・見送り役人・ふみ売・捕方=宇貫貴雄(松本高弥)、ならず者卒八・見送り役人・参詣の人・楽屋の客=八田武也(中村吉二郎)、ならず者菰六・参詣の人・神主・捕方=田端俊(中村京三郎)、茶店の娘=上條岳伸(坂東玉朗)、参詣の人・巫女=安藤孝宏(嵐徳江)、子供時代の末珠之介=佐々木宏太

※竹本作曲=竹本葵太夫 竹本=竹本葵太夫・鶴澤慎治

 

「花競葉月舟」(はなくらべはづきぶね) 清元連中

藤間勘十郎=振付

年増=中村歌江、町娘=市川左升、町娘=尾上梅之丞(大谷ちぐさ)、町娘=中村紫若、船頭=吉次改め中村吉五郎

 

補足:第十七回公演をふりかえって

『美少年於夏聞書』
第16回につづいて新作の上演となった。滝沢馬琴の読本『近世説美少年録』を原作にしたが、元が全60巻に及ぶ大作。それを持田諒が二時間の江戸世話物に再構成した。

赴任したばかりの京の町で、武家の嫡男瀬十郎は雨宿りに入った軒下で美しい踊り子お夏と会い、恋に落ちる。二人は逢瀬を重ねるが、瀬十郎の耳には次々よからぬ噂が入ってくる。お夏には木偶介という駆け込み夫がおり、さらには大家の若旦那鮒九郎も横恋慕。やむなく瀬十郎は、お夏と別れようとするが、お夏の口から「御子を身ごもりました」と聞かされて戸惑う。そこに鮒九郎の子分が押し込んでくる。瀬十郎は軽くあしらうつもりが、誤って一人を斬ってしまい、その咎で深草へ追放になる。そこに友人辛踏无四郎がお夏と乳飲み子珠之介を連れてたずねてくる。瀬十郎は、わが子である印に、珠之介の手に入れ墨の割印をする。そこに現れたのが木偶介。「鎌倉へ行ってやり直そう」とお夏と珠之介をつれて山中を急ぐが、山賊に捕まりあえなく絶命。珠之介の命も危ういところで、お夏は山賊二人に「二人の妻になるから」と取りすがって、わが子の命乞いをする。それもこれも愛しい瀬十郎の一子を守るためであった。やがて珠之介は、山賊の子として成長するが、自分の出生の秘密を母から聞くと、猛毒をつかって山賊二人を相討ちさせる計画を企てる。珠之介には秘薬を生み出す超能力が備わっていた。お夏が弁財天を信仰してきた功徳か、白い蛇の加勢もあって計画成功。親子は地獄の山を脱出する。

九年後。珠之介は朱之介と名乗る美少年に成長し、堺の町にいた。そして天然痘に冒された娘晩稲を救うため、賞金百両で妙薬を求める薬師吾足斉のもとに、その妙薬を持って現れる。実は山から下りた後、お夏は朱之介と生き別れてしまい、この吾足斉の後妻に納まっていたのだ。吾足斉はそれを知ると「お前にとっては私は義理の父、晩稲は義理の妹なのだから賞金を払う必要はない」と言い出す。それを聞くと朱之介は即座に吾足斉を斬り、百両を奪って逃げるのだった。後に残ったのは朱之介が落としていった印籠。騒ぎを聞きつけて出てきたお夏は、その印籠から夫を殺したのは自分の息子だと悟り、後を追う。朱之介は土手つたいに逃げるが、追い詰められて藪に隠れる。そこに現れたのがお夏。「息子を逃がしてやってください」と祈り、自分の胸に小刀をつき立てると、山賊を倒したときと同じ白蛇が現れ、もやい網を食いちぎり、藪にあった船を沖へ流してくれる。その船の中には朱之介と後を追ってきた晩稲。二人は顔を見合わせて沖へ向かうのであった。

【持田】
滝沢馬琴の物語には、舞台化すると面白そうなものがたくさんある。「葉月会」でもいつか取り上げられればと、皆さん考えていたようです。前回、竹柴正二さんが担当した脚本がほぼ新作同様に書き下ろされて上演された。ならば今度は、と私にお鉢が回ってきました。もとの読本『近説美少年録』は全30巻の大作。私が参考にしたのは国会図書館に所蔵されている「帝国文庫」版でした。日参して原本を複写することから始めました。非常に興味深い物語です。お夏・瀬十郎の逢瀬に始まり、底辺には弁財天信仰、つまり白蛇伝がある。さらに応仁の乱以降の男寵の風習に触れたり、公家・武士・庶民三層の駆け引きもある。これを悪戦苦闘の末、どうにかまとめました。私にとりましては、馬琴世界の奥深さに触れるとても貴重な体験をさせてもらいました。歌江さん、成島さんのご教示や、美術の碇山さんの協力があったればこそでした。

【成島】
歌舞伎には〈美少年〉が多々登場します。『妹背山』の久我之助、『熊谷陣屋』の敦盛、『鎌倉三代期』の三浦之助、白井権八に弁天小僧など、美少年の系譜があるといってもいい。馬琴もそれに着目してこの物語を描いたのではないかと想像しました。思案はその〈美少年〉を誰が演じるのかということ。瀬十郎には研修十期生の澤村紀義、朱之助は歌江さんにお夏と二役でお願いしました。紀義は大抜擢でしたから、本人も相当びっくりしたようでした。子ども時代の珠之助は子役です。この子役が走り回る山中の場面は、道具をすべて払って舞台いっぱいに使いました。持田さんの演出でしたが、今考えても斬新な演出だったと思います。これが最後の葉月会になりました。〈美少年〉で散る。華々しく散ったと思っております。

 


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