「道行詞甘替」(みちゆきことばのあまいかい) 竹本連中
藤間勘五郎=振付
舎人桜丸=松本幸右衛門、斎世の君=中村富二朗、苅屋姫=中村歌次
「二人椀久」(ににんわんきゅう) 長唄囃子連中
尾上菊之丞=指導
椀屋久兵衛=尾上梅之助、松山太夫=尾上梅之丞(大谷ちぐさ)
「切られお富」 二幕四場
河竹黙阿弥=作
序幕 薩峠一つ家の場
二幕目 赤間屋店先の場、同 奥座敷の場
狐ヶ崎畜生塚の場
大喜利 道行浄瑠璃「穐色於富與三郎(あきのいろおとみよさぶろう)」清元連中
藤間勘十郎=振付
切られお富=加賀屋歌江(中村歌江)、井筒与三郎=中村勘之丞、蝙蝠安=松本幸右衛門、赤間源左衛門=中村駒助、穂積幸十郎=山崎権一、女房お滝=澤村藤車(澤村鐵之助)、台屋三吉=坂東三平(坂東三津右衛門)若い者喜助=尾上辰夫(吉川明良)、若い者太助=中村蝶十郎、女郎福山=尾上梅之助、女郎千鳥=中村歌次、女郎小蝶=中村歌松、駕篭岩=坂東玉雪、駕篭松=小坂部暢宏(市川新七)、按摩めく市=富山新也(中村東志二郎)、女中おきん=高須浩二(市川笑子)、女郎小桜=森井忠行(市川笑羽)、旅人=原田敏男(片岡孝蔵)、旅人=吉田明義(澤村紀義)、旅人=渡邊芳彦(中村亀鶴)、非人実は捕手=小島隆(松本錦一)、非人実は捕手=千葉秀樹(中村鴈成)、若い者=原島康嘉(澤村光紀)、ほか
補足:第八回公演をふりかえって
『切られお富』は、瀬川如皐の有名な『与話情浮名横櫛』を河竹黙阿弥が三代目田之助のために書き替えた作品。あまり上演されないが、書替狂言としては傑作中の傑作。この「葉月会」では、初演以来出たことのない〈道行〉まで上演。このことだけでも画期的な企画であった。
新内語りで評判の〈横櫛のお富〉は、旅廻りの木更津で与三郎という浪人と見染め合う。その後、赤間源左衛門の妾となるが、ある日、藤の花見で与三郎と再会。やけぼっくりに火がついて、人目をしのんで逢瀬を重ねるが、源左衛門の知るところとなり、めった切りされたあげく川へ捨てられる。以前からお富に片想いの蝙蝠の安蔵がお富を救い、二人は薩?峠で茶店を営んでいる。その茶店に偶然与三郎が立ち寄り、再会を果たす。切り傷だらけのお富に驚く与三郎だったが、旧主の宝刀北斗丸を取り戻すための金に困窮する身の上を語る。それを聞いたお富は、「蝙蝠安と組んで、憎い源左衛門から金をゆすり取ろう」と決心する。企みはうまくいったものの、帰り道に金の配分で争いになり、思わず蝙蝠安を殺害。二百両すべてを与三郎に渡す。そこで「実は与三郎とお富は兄弟」「実は蝙蝠安はお富の旧主」とわかる。二人は絶望して心中しようとする・・・。
【成島】
悪婆ものをいくつか演じ、三代目時蔵さんがなさった作品もいくつかやってきたことで、「そろそろ〈切られお富〉をどうか」という声が上がっていたんです。〈悪婆もの〉の代表作のひとつであるし、以前ほかで上演されていたときの評判もいいということで、上演が決まりました。この作品から第16回まで、九つ黙阿弥作品が続くことになります。
【歌江】
久しく出ていない作品であることと、やはり三代目時蔵さんがなさったのがすばらしく、是非にと思っていました。田圃の太夫とよばれた四代目澤村源之助の当たり役だったそうで、六代目尾上梅幸さんも演じていますが、梅幸を崇拝してらした中村芝鶴さんも「お富が裾をまくって花道を走り出すところは、梅幸も田圃(の通称)にかなわなかったね」とおっしゃっていました。私の師匠の歌右衛門は演じたことがありませんが、昔をよくご存知の梅花さんが、やはり指導に当たってくださいました。
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